過剰反応

※軽く嘔吐描写あり。







―ガシャン―

台所から響く陶器の音、続けて微かな唸声。




「 ?」



間仕切り用のビーズカーテンを片手で退けると、床に倒れ込んだ の姿。




「どうしたっ!?」




すぐさま近付いて肩を支えながらゆっくりと立ち上がらせ、表情を伺う。

呼吸が浅く早い、顔面は蒼白く、汗が滲んでいる。
目眩の為か眼球が左右に動いて焦点が合っていない、それに指先も痙攣している。



「…多分、薬のアレルギー反応……ゴメン。」



小さく嗚咽に近い の声が耳に届く。
以前、ある鎮痛剤による薬物アレルギーが起こるという話を思い出した。

だとするならば…




「…済まない。」




彼の発した謝罪に対する疑問と制止の声もあげぬ間に、手早く は上着を脱がされ、無理矢理シンク台の前に立たされた。

何をするのかと、口を開けた瞬間…



「んぅっ…!」




口の中に指を突っ込まれた。




「げほっ…かは…、っう…何す…」


「とにかく胃の洗浄だ…辛いだろうが耐えてくれ」




人為的に舌の奥を刺激され吐出する。
そして間髪入れず、今度は水を口に流し込んで、また指を捩じ込ませ吐き出させる。



「えほっ…ぅ…ふ…」




嘔吐く の目尻には涙が溜まって、視界が歪んでいた。

数回それを繰り返し、彼が背中を擦ってやると、 は噎せながらも呼吸を整えて口を濯いだ。




「これで後は体内に吸収された分が抜けてしまえば、楽になるはずだ…」


「…ぅえ……拷問だ、…」


「薬が切れるまで長くて6〜8時間苦しむよりは、ましだと思うがね。」


「うー…」



あらかた吐き出してしまったおかげか、 は吐出後の妙な爽快感に多少は気分を持ち直していた。

呼吸を落ち着かせ、髪や顔に付着した胃液とその他諸々を軽く水で流し、汚れたインナーシャツを脱いで顔を拭ってから洗濯機に投げ入れた。

振り返ると…
何処までも気の配れる彼が、視線を明から様に逸らして下着姿の に替えのキャミソールを手渡す。

思わず噴き出して笑いそうになるのをグッと堪え、手渡されたキャミソールに腕を通した。



「……うえ…っ、頭がグラグラする…」


「落ち着いたら風呂に入るといい、今は休め。」




抱き抱えられてベットに運ばれ、首もとまで布団をかけられた。


ふと、 が朦朧とした頭で彼の右手を見ると先程の行為中…無意識に前歯で傷付けてしまったらしく、中指の付け根から血が滲んでいた。



「ゴメン…」



 は掛けられた布団から腕を伸ばして、彼の右手を撫でた。

ゴツゴツして節がしっかりとしているが、指は長くて爪も切り揃えられていて美しい。


傷を負うことには慣れている、と低く呟く彼に…それでも痛い事に変わりはない、と返せば口を塞がれた。



「……英霊って凄いね」


「この程度の傷、苦にはならんさ…」


「いや…そーじゃなくて、」


「ん?」



焦点の合わない視界で、ボーッと彼の顔を見上げる。
頬を撫でられているのが、こそばゆい。




「…よくゲロったばかりの女にキス出来るなあ、と」




呟いた瞬間、頬に触れていた手がピタリと止まる。
数秒沈黙が流れた後、彼は触れていた手を引っ込めて、そのまま自分の顔を覆った。



「……忘れてくれ。」


「いや、そんな面白い顔されたら無理。」


笑顔で真っ青になった彼の顔は、 が睡魔に意識を手放すまで、瞼の裏に貼り付いたままだった。

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